【ベイビーシアターGiftを終えて③〜舞台芸術を通じた子育て支援〜】


 ベイビーシアター「Gift」が成功したのは、今回参加してくれたダンサーであり母親であるちひろちゃんが保育士である私のことをとても信頼してくれていたことが一番大きいと思います。
今回、4ヶ月ちょっとのConniちゃんをベイビーシアターの舞台に上げるのは初めは私もちょっと躊躇しました。Conniちゃんの心と身体にプレッシャーをかけるのではないだろうか?外部から「歩けもしないうちからダンス?」「赤ちゃんを見世物にするの?」「ARTなんて理解出来る年齢になってから関わらせてあげればいいじゃん」「大人の自己満足に赤ちゃんを付き合わせるの?」みたいな批判が来るのではないだろうか?
 この作品は「コンタクトインプロビセーションというダンスを通じて赤ちゃんとしっかり向き合ってみようよ。そうしたら発見とか喜びとか赤ちゃんからもらえるgiftは沢山あるよ。スマホの情報じゃなくて、踊っている間だけでも目の前の赤ちゃんに集中してみよう」というメッセージが込められています。
 ちひろちゃんはこの作品コンセプトに共感してくれ、私の心配をものともせず、明るく「やってみたいです」と言ってくれました。
 ちひろちゃんの自宅に訪問して実際にConniちゃんの姿をみながら、ちひろちゃんの子育てへの思いや、赤ちゃんの身体の発達のこと、これから始まる離乳食のこと、私の働いている保育園の子どもたちのこと、沢山の話をしました。
「あ〜シズさんに話聞いといてよかった♡」
そう言って笑うちひろちゃん。3回のリハーサルはお互いにとってすごく豊かな時間でした。
 「Gift」を創るうえでこだわったのは、
「Conniちゃんが小道具やマスコットキャラのように見えないようにしたい」ということでした。
「その為には大人がConniちゃんをあやしたらいけない。あやすという行為をしてしまうと赤ちゃんから私たちがGiftをもらうという点が見えづらくなる。あやすと大人が赤ちゃんをコントロールしようとする意図が見え隠れして、そうするとダンスから遠くなってしまう」
という演出家としての私の思いがありました。しかし、リハーサルではどうしてもConni
ちゃんをあやしてしまうちひろちゃんがいました。母親ですもの。当然です。私がそこで
「ちひろちゃん、そこでConniちゃんをあやさないで」
と言うのは簡単でした。ちひろちゃんはダンスの世界で生きてきた人です。ダメ出しをされることなどいくらでもあったはずです。私がダメ出しをしたとしても受け止めるキャパシティはあったことでしょう。ですが私は保育者として、子育て支援者として、コンタクトインプロビゼーションのインプロバイザーとして「ダメ出し」はしたくありませんでした。保育でも、子育て支援でも、コンタクトインプロビゼーションでも「その人が今ここにいることに向き合う」「その人自から育つことを支える」のが私が大切にしたいことだったからです。演出家としての私と保育者&支援者の私の中で葛藤しながら本番の日がやってきました。

 本番当日、楽屋でゲネプロの映像をみんなで観ていた時のことです。インプロの作品なので正解も不正解もないのですが、何となく「面白く見えない」瞬間があることに、私もちひろちゃんも亮子ちゃんも気がついていました。
「これはConniちゃんが飽きてきたのを感じとって大人側が日和ったね。もっとConniちゃんのことを信じないといけないね」
という話になった時、ちひろちゃんが言いました。
「この子の状態にもよるんですけど、私は本番ではConniを抱っこしない方がいいと思うんです。それって別に普通のことだから。それだったら舞台に乗せる必要はないと思うんです。抱く役割はシズさんに任せたほうがいい」
 この宣言を私はきっと一生忘れないと思います。これは母親としてダンサーとしてどれだけの覚悟がいる行為なのだろうと思うと胸がいっぱいでした。そして、本番、ちひろちゃんは本当にConniちゃんを一度も抱っこせず、Conniちゃんも一度も泣かずに本番を成し遂げました。
「舞台芸術を通じた子育て支援」と言ってもまだまだピンと来ない人の方が多いと思います。
ですが、私は「Gift」を通じて「舞台芸術」や「Art」と呼ばれるものはきっと、赤ちゃん、お母さん、お父さんを幸せへと導いてくれるものだと信じることができるようになりました。

しぃ先生のウゴイテミレバ

みずかみしずの活動と日々の徒然

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